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♪ リクエスト
『 カレの足跡
カノジョの足跡
交差した 純白の雪道 』
こんな走り書きが入った わたせせいぞうの カレンダーを
やっと一枚剥ぎ取ったばかりだというのに・・・
今日も東京は、初夏を思わせるほど 朝から暑かった ...
公園のベンチに座り、ボクは この異常気象を楽しんでいた
季節は 弥生
日付は3月3日なのに、GWのように爽やかに暑かった
兄との約束まで まだ2時間ほどあった
雛祭りにかこつけた身内だけのパーティに行くつもりだ
久々の母の手料理が、ボクを待っている...
クルマは土曜日の渋滞にも巻き込まれずに思ったよりも早く着いた
ボクは兄の家の近くに在る成城の大きな公園で時間を潰していた
隣のベンチのおじいさんが パンのようなものを投げ、鳩を寄せていた
鳩の群れと、それを取り巻く雀(すずめ)たちとの攻防を
ボクは ぼんやりと見ていた
胸の赤い鳩が 一羽の雀を追い払った時、
携帯が震えた
「 は~ぃ、今 なにしてるぅ 」
マリリンの甘ったるい声が、パンと一緒に公園に撒かれた
「 あたし今、鎌プリでモーニング中
海が 光ってて とっても綺麗なの~
ねぇ♡ いつものイタリアンで ランチしな~い? 」
マリリンと言っても 純粋の日本人で、30歳を超えた人妻だ
ボクが10年前、 神奈川で議員秘書をしていた頃からの付き合いだ
カノジョは当時まだ大学生で、選挙の手伝いに来ていた
先生の後援会長の三女で、とてもチャーミングな娘だった
衆院3期目の当選を決めた打ち上げ会で
本田美奈子ばりの振り付けで 『♪1986年のマリリン』 を唄ってから
カノジョはマリリンになった
ボク達 秘書仲間では、カノジョはアイドル的な存在だった
モデルばりのスタイルで着こなしたフレアからスラッと伸びた脚は
当時30をとっくに越しているボクにも刺激的だった
今日は用事があるから行けないことを伝えたが、ダメだった
「どーしても今日がいい」と、珍しくカノジョも引かなかった
こんなことは今までなかったほど、カノジョの声は思い詰めて聞こえた
白旗神社を左折して、しばらく軽い渋滞に巻き込まれた後、腰越で海に出た
鎌倉へ続く海沿いの道は、中途半端に混んでいた
江ノ電と並走したのも一瞬で、鎌倉高校前からは
同じ景色をだらだらと見ることになった
約束のイタリアンレストランには 3台分の駐車スペースが有り
満車だったが、運良くちょうど1台出るところだった
ハザードを点滅させ、渋滞から左に寄せた
駐車場はコンクリートで囲まれており、
レストランは 右側の石段を登った2階部分に在った
駐車場から出るのに 一苦労している石川県ナンバーの上のテラス席で、
マリリンが軽く手を上げて微笑んだ
ボクたちは解放的なテラス席で 季節のコースを楽しんだ
「ステキな景色でしょう? お気に召しましたか?」
とても可愛いウエートレスが、珈琲のタイミングを はかりに来て続けた
「今日は風もなくて... 最高ですネ」
ボクとカノジョは、笑顔で彼女を迎い入れた
「ここは景色とお料理だけじゃなくて、店員さんが皆さん陽気でステキだわ・・・ 気持ちぃぃ... 」
最後を独り言のようにつぶやくと
カノジョは顎の前で指を組み
ほぅ~ と 息を吐いて
目を閉じた
暖かいと言っても季節は春
海の風が少し身体にキツク感じ始めた頃
ボクたちはレストランをあとにした
・・・ 雛祭りの団欒も もう一区切りついた頃だろうか ・・・
ボクの胸が チクリ! と 痛んだ
ボクたちは駐車場を右折すると、そのまま西へ向かった
強羅に在るカノジョのアトリエに向かっていた
カノジョの提案だった
江ノ島を過ぎた頃から 海沿いの道は全く進まなくなった
でも音楽を聴きながら トリトメノナイ話をあれこれしていたので
渋滞は全く気にならなかった
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ほわ~ とした、暖かく湿った空気が近寄る気配で 目が覚めた
「良く寝てたわ」
シャワーを浴びてバスローブをまとったカノジョが
ボクの唇に軽くKISSをすると
そのまま体を滑らせて、ボクのベッドに入って来た
バスローブの下には 何も着けていないことは
すぐにわかった
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シャワーを浴びて部屋に戻ると
バスローブ姿のカノジョが 月明かりの窓辺で
煙草に火を点けたところだった
カノジョは 入り口で立ち止まったボクに、おどけて小さく叫んだ
「とうとう やっちゃったネ」
月明かりでもハッキリと分かる カノジョの照れた表情は、
出会った頃の22歳のカノジョだった
入り口のドアーに寄りかかって 薄く笑っているボクに、カノジョは続けた
「 ねぇ... 私って 綺麗かなぁ ... ? 」
カノジョの肩から スルっと バスローブが落ちた
月明かりで見るカノジョは、確かに綺麗だった・・・
カノジョは ボクを窓辺に呼び
再び 抱かれた・・・
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「 ネェ... 胸を 吸ってみて... 」
イタズラっぽくカノジョが求めた
左の胸から右の胸に移り、軽く吸った時に
カノジョの顔が 歪んだ
ボクは目を開けるでもなく ぼんやりと胸に顔があったのだが
カノジョの顔が 歪むのが分かった
『 痛かったの? 』
視線をカノジョの瞳に合わせて 訊いた
返事をしないまま 何か躊躇していたカノジョが
突然 ボクを放し
イタズラな目で 笑った
「今 あたしの胸 吸ったでしょ~
人妻の胸を吸うと 天罰が下るぞぉ~」
カノジョは 独りで笑って
独りで沈んでいった・・・
「 ねぇ 私のカラダ ... ホントに綺麗 ... ? 」
カノジョは 何かを ためらっていた
ボクは、そんなカノジョに 優しかった・・・
「 ねぇ... ギターを弾いて 少し... 疲れたゎ・・・ 」
ボクは ベッドの向こう側に立てかけてあるギターを取りに行き
カノジョから離れたソファーに座り
適当に知ってるフレーズを
2~3コーラスづつ弾いてみた
ご主人の物だろうか?
オーベーションの高そうなギターで
寝室に独特の音色が広がった
「 3月9日って曲、 知ってる? ・・・ ねぇ、唄って ・・・ 」
戸惑いながら リクエストに応えて
ボクは歌い始めた
「 あたしネ ・・・ その日 ・・・ 手術なんだ ・・・ 」
2章節目に入る前に
突然 カノジョが告白した
ボクは 顔をカノジョに向け
アルペジオだけは 止めなかった
3月9日をBGMに
カノジョの告白は続いた・・・
明日から 入院すること
手術は 3月9日に行われること
病院は、ご主人が院長をしている総合病院ではなく
お友達の忍さんが勤務する大学病院ですること
そして
自分が ステージ1の症状にいること・・・
そして...
そして、 この綺麗な胸が ・・・
片方なくなること を ・・・
カノジョは ジンとグレープフルーツを適当に割って持ってきた
ボクは 窓辺にもたれていた
綺麗な月だった・・・
「 くしゅッ! 」 カノジョは 小さなくしゃみをした
ボクは 人差し指で カノジョのおでこを 軽く小突いた
いたずらっぽい笑顔のカノジョは
大きなリアクションでのけぞり
そのままの反動で
ボクの胸に額を くつけた ・・・
ボクは カノジョを クレッシェンドで抱きしめた
カノジョは ボクの胸に額を つけたまま
とても静かに
・・・・・
泣き始めた ・・・
♪ お願いすこし疲れたの 私を抱いて
遅いリズムにあわせて 踊って
バンドの人に リクエストしていいかしら?
私の好きな あの歌を
Who's Gona Hold Your Hand ?
もう私たちは おしまいなの?
Who's Gona Hold Your Heart ?
もう私たちは おしまいなの?
ねェ ... あの人たち めぐり合ったばかりみたいね
Who's Gona Hold Your Hand ?
もう私たちは おしまいなの?
Who's Gona Hold Your Heart ?
もう私たちは おしまいなのね ...
最後の曲になる前に この店を出て
人のにぎわう所を 歩いて
ギターを弾いている人が ほら微笑んで
私たちの方を 見ているわ
Who's Gona Hold Your Hand ?
もう私たちは おしまいなの?
Who's Gona Hold Your Heart ?
もう私たちは おしまいなの?
ねェ ... 強く抱いて あなたのにおい 私に下さい
Who's Gona Hold Your Hand ?
もう私たちは おしまいなの?
Who's Gona Hold Your Heart ?
もう私たちは おしまいなのね ...
BGM 中村泰士(ジュディ・オング)「 リクエスト 」